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2017.05.31 Wednesday

木ノ下歌舞伎  「東海道四谷怪談―通し上演―」

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         木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談―通し上演―」 ★★★★★

     

     

    池袋のあうるすぽっとで木ノ下歌舞伎の「東海道四谷怪談―通し上演―」を観る。

    鶴屋南北の作品における「お岩さん」の怪談話はエピソードのひとつであり、
    実は当時の社会の縮図のような、濃密な世界を描いた作品であることがよくわかる。
    登場人物の個性が、それぞれの出自と生育環境の違いもあって鮮やかに描き分けられ
    その結果としての悲劇が際立つ。
    原作に忠実な現代語の台詞が的確で、普遍的な人の心情がストレートに響く。
    6時間の長尺にも拘わらず、アフタートークに残った人数が満足感を示している。
    いつもながらこれほど面白く、内容の濃いアフタートークを、私はほかに知らない。
    江戸の歌舞伎の時代性と勢いを、新しい装いで蘇えらせてくれてありがとう!

     

     

     

    ●〜○〜●以下ネタバレ注意●〜○〜●

     

     

     

    おなじみ客席に向かって傾斜した舞台は、汚しの入ったような定式幕柄の床。

    もしかして役者さんは歩きにくいかもしれないが、

    この傾斜は本当にどこからも見やすく、奥行や距離感が解って好きだ。

     

     

    第一幕

    浅草寺境内で“ことの発端”がいくつか描かれる。

    伊右衛門は妻のお岩と復縁したいのだが、義父の左門は彼の素行の悪さを理由に拒む。

    お岩の妹お袖は、許婚の与茂七が主君の仇討ちの為、今は離れている。

    そのお袖に横恋慕する直助は、お袖と再会した与茂七の後をつけて殺害、

    伊右衛門も、激しく叱責されて左門を切り殺してしまう。

    お岩は父左門を、お袖は与茂七の亡骸を発見して悲嘆にくれるが

    犯人の二人はそれぞれ「きっと敵を討ってやる」と持ち掛け夫婦として暮らすことになる。

     

     

    第二幕

    仇討ちを口実に復縁した伊右衛門とお岩だが、生活は困窮しお岩は産後の肥立も良くない。

    二人に仕える小平は伊右衛門の家に伝わる秘薬を盗んで伊右衛門に惨殺される。

    裕福な伊藤家からは度々見舞いの品などが届けられ、今日は薬がお岩に届けられた。

    が、その薬を飲んだお岩は突然苦しみ始める。

    一方伊藤家でもてなしを受ける伊右衛門は、大金を積まれて

    「孫娘の梅と結婚してほしい」と乞われるが、一度は妻があるからと断る。

    しかし、お岩に毒を盛ったこと、顔が変わるであろうことを聞いて決心する。

    お岩は失意のうちに命を落とし、伊右衛門は梅を妻とする。

    ある日、伊右衛門が釣りをしていると戸板が流れつき、そこにはお岩と小平が打ち付けられていた。

     

     

    第三幕

    与茂七の仇討ちの為、直助と仮の夫婦になっているお袖は、

    ある日家にやって来た按摩からお岩の死を聞かされる。

    その夜お袖を訪ねて来た与茂七を見て、殺したはずなのにと、直助は驚愕する。

    与茂七を亡き者にしたい直助と、仇討ちを知る直助の口を封じたい与茂七。

    お袖は二人別々に策を持ちかけ、二人は隠れているのがお袖とは知らずに襲撃する。

    お袖は二人に詫びながら死ぬ。

    伊右衛門に惨殺された小平は、かつて仕えた又之丞が病のため歩けないのを

    何とか救いたい一心で伊右衛門の家から高価な薬を盗んだのだった。

    その薬を飲んだ又之丞はたちまち歩けるようになる。

     

    七夕の夜伊右衛門は美しい女と出会い、恋に落ちる。

    身を隠していた庵でその夢から覚めた伊右衛門は、ついに与茂七の手にかかる…。

     

     

     

    スピーディーな場面転換、ヘリの轟音でいや増す不穏な空気、観ている私も

    ロックとラップのテンポに巻き込まれながら登場人物と共に奈落の底へと転げ落ちる。

    忠臣蔵をバックに、凋落した一族と栄華を誇る一族の対比も鮮やかな人間模様。

    現代の比ではない格差社会の、やり場のない鬱積したエネルギーが

    負の方向へと向かっていく様がとてもリアル。

    登場人物はみんな少しズルくて少し依存して、でも優しいところもある。

     

     

    夢と現の境があいまいな中で、与茂七に斬られる伊右衛門が儚くて良い。

    出世のために愛する女を裏切り、結局すべてを失ってひとりになった男。

    「お前、何がしたかったんだ?」という問いかけが虚しく響く。

     

     

    お岩(黒岩三佳)お袖(土居志央梨)の姉妹がたおやかで声も良く品がある。

    武家の娘である故の“仇討ち”に縛られる人生の哀しみが伝わって来る。

    按摩(夏目慎也)の、土壇場でお岩に対する態度の豹変ぶりがリアルで説得力あり。

    エネルギーがほとばしるような本音の台詞が迫力満点。

    第一幕で一瞬登場する按摩の妻を演じた小沢道成さんの

    「どこの女優さんか?」と思うなめらかな女っぷりに目を見張った。

    難病の浪士役にも色気があって、実に魅力的。

     

     

    アフタートークでも語られたが、原作の台詞を忠実に現代語訳する

    卓越したセンスがこの作品のキモだろう。

    古典の持つ品格と下世話な猥雑さと、庶民の行き場の無いエネルギーの放出。

    それらを今に再現する木ノ下歌舞伎の底力を見た思いがする。

    杉原氏はキノカブを卒業とのことだが、また次の作品を見るのを楽しみにしている。

    何たって最強タッグにちがいないのだから。

    半日コース、楽しかった、ありがとうございました!

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    2017.05.13 Saturday

    ポップンマッシュルームチキン野郎 「死なない男は棺桶で二度寝する」

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      ポップンマッシュルームチキン野郎 「死なない男は棺桶で二度寝する」★★★★

       

       

      池袋のシアターKASSAIでポップンマッシュルームチキン野郎の

       「死なない男は棺桶で二度寝する」を観る。

      若干既視感なくもないが、キレの良いブラックなギャグと

      シリアスなストーリーの対照が鮮やかなのはさすが吹原作品。

      前半のおふざけタイムに、誰があのラストの涙を想像できただろうか。

      「死なない男」は世界一孤独な、そして世界一愛された男だった。

       

       

       

      ●〜○〜●以下ネタバレ注意●〜○〜●

       

       

       

      開演前の全力投球も素晴らしく、

      (ほんと、全力の人を見るとどうして笑っちゃうんだろ?)

      「いいトシをして定職にも就かず…」という私の一番好きな格言(?)を聴くと

      ああ、またポップンの舞台を観に来たんだなあと心の底から幸せな気持ちになる。

       

       

       

      前半のユルさは、すべて後のシリアスな展開のためにあると言ってよいだろう。

      なんたって時事ネタの中に痛烈な批判精神を練り込んだ末に

      アメリカ大統領が日本の風呂屋で死んでしまうのだ。

       

       

       

      本題は、いい加減な日本の首相の友人でもあった一人の男、

      はるか昔に人魚を食らって不死の身体になった男(吉田翔吾)である。

      この男と結婚した信子(小岩崎小恵)が、夫の過去に疑問を持ったことから

      私たちは共に彼の過去を紐解くことになる。

       

       

       

      吉田翔吾さんの、浮世離れしたピュアな浮遊感が素晴らしい。

      ソフトな優しいキャラが、激しい憎しみを見せ、誰とも共有できない孤独を漂わせる。

      ポップンは全員が主役を張れるところがすごいと思うが、

      同時に全員を主役にしようとして作品を書く脚本家の愛情を感じる。

       

       

       

      NPO法人さんと井上ほたてひもさんの“バスタオル”や“相撲”の掛け合いなど観ると

      その演じていないような、素でやっているだけにも見える天然のボケぶりが

      本当に素晴らしく、リピートしても全く飽きない。

       

       

       

      相変わらず横尾下下さんの凄みのあるキャラには説得力があって

      ユルいムードから一瞬のうちに、観る者を暗がりへと突き落す威力を持つ。

      異様な風体といい、精神病棟にいる不安定さといい、

      「うちの犬はサイコロを振るのをやめた」の元兵士を彷彿とさせ

      そこが素晴らしいと同時に既視感を抱かせる要因でもある。

       

       

       

      ラスト、再びのピュアな展開に泣かされながら、

      この両極の鮮やかなコントラストこそが、ポップンの底力であり、魅力なのだと思い知る。

      他劇団がやろうとしてやり切れずに、役者の微妙な苦笑いにシラケて終わる、

      あの難しさを全力でやってのけるポップンに心から拍手!

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       


      2017.05.08 Monday

      劇団チョコレートケーキ 「60'sエレジー」★★★★★

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        劇団チョコレートケーキ 「60’sエレジー」

         

         

        新宿サンモールスタジオで劇団チョコレートケーキの 「60’sエレジー」を観る。

        高度経済成長期の高揚感と、その波に乗れない人々の悲哀が“日々のことば”で語られる。

        上手く転身できない、あるいはしようとしない人々の、焦燥感と苛立ちが痛いほど切ない。

        集団就職の少年役、足立英さんの初々しさと瑞々しさに感嘆。

        脚本がいいなあ。台詞がいいなあ。

        歴史物の格調高いのも好きだが、普通の会話でこんなにボロ泣きしたのは久しぶりだ。

         

         

        ●〜○〜●以下ネタバレ注意●〜○〜●

         

         

        舞台は昭和35年、東京オリンピックを前に、東京下町の小さな蚊帳工場が

        一人の集団就職の少年を迎える。

        下手にはガラガラッと外から入れば広がる三和土、奥には作業場がある。

        上手は神棚が祭られた居間である。

        会津から来た少年修三(足立英)は、ベテランの職人(林竜三)に仕事を仕込まれ

        社長夫妻(西尾友樹、佐藤みゆき)の愛情に包まれて成長する。

        だが高度成長期の日本はその生活様式までもが変化、蚊帳の需要は次第に減っていく…。

         

         

        昭和30年代の推進力ともなった、時代の高揚感が伝わってくる。

        劇中の台詞にもあったが、戦中戦後の物の無い時代の反動にも見える物欲と拝金主義。

        それを享受する人がいる一方で、変化する社会について行けない人も多かったはずだ。

        商品開発などという器用さを持たない職人気質と、

        商売変えを考えるより、人としての義理を優先する社長の心情は、

        時代へのささやかな抵抗にも見える。

         

         

        その不器用で一途な社長の思いがほとばしるような西尾友樹さんの演技だった。

        冒頭テンションの高さにちょっとびっくりしたが、それが彼の“照れ”の裏返しと判ると

        妻役の佐藤みゆきさんとの相性も良く、バランスの良さは物語の要となる。

        古いタイプと言われるのだろうが、いい夫婦だなと思う。

        正しい選択ではないのかもしれない。

        だが常にベストの選択をしたのだ、この夫婦は。

         

         

        岡本篤さん演じる社長の弟の、軽妙だが繊細なキャラが素晴らしい。

        頑固な兄の選択を受け容れて、自分が口減らしのために転職する。

        ふと、岡本さんが社長、西尾さんが弟、という配役もあったかもしれないと思ったりしたが、

        この弟の鷹揚さは、やはり岡本さんだろう。

         

         

        ベテラン蚊帳職人役の林竜三さんが秀逸。

        その佇まい、風呂敷包みを持って帰る仕草、潔さなどすべてが年季と実直さを表している。

         

         

        兄弟の幼馴染で隣に住む実役の日比谷線さん、軽いだけの紙芝居屋かと思いきや

        親身になって「引き際を誤るなよ」と忠告し、自身も不動産屋に就職する男がとても良かった。

        時代を冷静に見て家族のために身を処するが、どこか一抹の寂しさをたたえている。

         

         

        先代のときから蚊帳を仕入れてくれた寝具店の営業マンを演じた浅井伸治さん、

        相変わらず隙の無いなりきりぶりが見事だった。

        会社の方針との板挟みに悩みながらも、蚊帳工場に冷静なアドバイスをする、

        その反面、面倒見が良く、修三の次の就職先を世話したりする人情派。

        嫌な話をしに来た時の、緊張感が伝わって来るような姿勢や歩き方が素晴らしい。

         

         

        集団就職で状況してきた少年から、夫婦の元で夜間高校、大学と進学する修三の

        刻々と変化する様を演じた足立英さん、

        瑞々しい少年期から、理想に燃えて学生運動に身を投じる青年期まで演じきった。

        彼が72歳(確か…)でこういう最期を遂げるのかと思うと、誠に寂しい。

        修三が一番輝いていたのは、蚊帳工場で過ごした10年間だったのだろう。

         

         

        新しい職場へ移る修三に妻が、困ったときにはいつでもおいでとかけた言葉

        「必ずあんたの味方になるから」という台詞にボロ泣きした。

        ラスト、修三が大学に合格した日のシーン、

        西尾さんの「合格です」という小さな台詞に、笑いながらボロ泣きした。

        何度ボロ泣きしただろう、どれも市井の人々の日常のことばに。

         

         

        「何かを成し遂げた」人も素晴らしいが

        「何も成し遂げずに終わった」人も素晴らしい。

        チョコレートケーキは、そのどちらにも光を当てることが出来る。

        再びの「東京オリンピック」を前に、私たちはまた何かを喪うのだろうか。

        そんなことを考えさせてくれる作品、ありがとうございました。

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         

         


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